その突き出た鼻をヒクヒクと動かし、風に乗ってやってくる微かな血の臭いを嗅ぎつけた。
フン、と鼻をならし、慎重にその臭いの出所へと進んでいく。
やがて、血のにおいとともに焼けた肉の匂いと、魔獣の悲鳴の様なものが聞こえ、その「男」は慌てて駆け出した。
――ひょっとすると、まだ生きているかもしれない。
――まだ助けられるかもしれない。
この時間、この森で血を流すのは、致命的だ。
血の臭いに引かれ多くの獣や魔獣が寄ってくる。
焼け焦げた匂いと悲鳴は、応戦している証拠なのだろう。
ならば、拾える命は拾いたい。
携えた鋲のついた棍棒を強く握りしめ、走る速度を上げる。
そこには、魔狼に対峙する一人の少女、いや、その場に不釣り合いなほどの幼女がいた。
肩口から衣服が裂かれ、露出した白い肌から血が滴っている。
それでも、その瞳には絶望は無く、生を掴もうとあがく光が見えた。
右手に携えた杖から、おそらく魔法使い。となると、さっきの焼けた匂いはこの子が放った攻撃呪文だろうか。
何故このような子がこんな場所にいるのかは解らないが、「男」はその幼女に酷く好感を抱いた。(続