駐車場で猫を見かけたら立ち止まる。私もそんな多くの人間のひとりだ。車の下を器用に潜り抜けていく、その後ろ脚を追いかけて先回りし、その顔を見なければ気が済まないのだ。
髪の毛が地面につくのもお構いなく、車の下をのぞくと猫はそこにいて、こちらに目もくれず何かをみつめている。周囲を見れば、駐車場を歩いていくハトがいる。熱い視線の先はあのハトのようだ。
ハトだって猫に獲られるほどのろくはないが、あまりにも平和そうな顔をして、猫に気づいている様子は全くないし、何より足を怪我しているのか歩き方が普通じゃない。ひょこひょこ歩きながら、たまに何かをついばんでいる。
猫に獲られるのもハトの運命かもしれないが、いま私がここにいるのも運命だろう。私はハトの味方だ。猫は低い姿勢で肩を上げたまま狙っている。気づかない様子のハトと猫の間をゆっくり歩く。長い時間がたっても、なかなか安全地帯まで行ってくれないハトに「猫に狙われているぞ、ここを離れたまえよ」と話しかけても動じない。
猫は今どこから狙っているのか。再びかがんで車の下を見た私の背中を、ハトが羽ばたいて超えて行った。
長生きしろよ!