これはクソじゃないアニメ Advent Calendar 2018参加記事ではありません。
天体のメソッドと書いて「そらのメソッド」と読む。厄介なオタクに深く愛されながら金を生まなかったアニメ。天体のメソッドの実質2期であるフリップフラッパーズもそんな感じだ。フリップフラッパーズは専用の分散SNS実装があるくらいなので、厄介なオタクにさらに深く愛されている。
最高の作画。豪華な声優。最高のキャラデザ。最高の楽曲。そして難解なストーリー。
なお、ここで便宜のために、各話のストーリーまとめ。
- 1話: チュートリアル兼ノエルルート。
- 2話から5話: 柚季ルート。
- 6話: 温泉回。
- 7話: 墓参り。
- 8話: 汐音ルート。
- 9話から11話: ノエルの盛大な葬式。
- 12話から13話: 第2世界。
天体のメソッドは、放送当時の視聴者たちのコメントとともに振り返りたいアニメだ。あらゆる意味で予想不可能なストーリー展開に、視聴者たちは右往左往させられた。振り落とされたオタクたちは「ノエルがかわいいだけのアニメ」というインターネットミームを生み出した。2話から4話までの柚季ルートでは、円盤反対運動を原発と重ね合わせる意見が見られたものの、5話以降は自然消滅した。原発を抜きにしても柚季ルートは異常なアニメで、こじれにこじれた柚季さんの巨大感情が5話のほんの数分でスッと解決する鮮やかな手腕に度肝を抜かれたものだ。
萌えアニメが安易に登場人物を高校生にしがちな風潮 [要出典] のなか、天体のメソッドは、中学生の良さがたっぷり詰まったアニメだ。ちなみに中学生をたっぷり見られるアニメには、ゆるゆり、放課後のプレアデス、フリップフラッパーズなどが知られており、けっこう多いな。中学生だけではない。天体のメソッドでは、作中で言うところの「7年前」、単純計算すると小学2年生のみなさんもたっぷり見られる。小学生の乃々香さんの、コートのすそからシャツのすそが出ちゃってるファッションが良すぎる。ノエルも、「7年前」のみなさんの姿を模している存在なので、だいたい小学2年生の外見である。ノエルの衣装は脚が強調されてるので、小学生なのにエロい。これはたぶんキャラデザの秋谷有紀恵先生がクソ強く、中学生や小学生を容赦なく無限にエロくすることができる。
このアニメで頻繁に出てくる謎ワードが「7年前」だ。このアニメは、一貫して、7年前にあったはずの出来事に、中学生たちが粘着しまくる話である。別に殺人事件とかそういう強いやつではない。7年前の出来事は以下。
- 円盤を呼ぶ儀式をした。
- 乃々香が転校するとき、そのことを友達たちに伝えられなかった。
- 乃々香の母が病気で死んだ。
改めてリストにしてみると、1個目はともかく、2個目と3個目を気にしてるのは乃々香さんだけっぽい。そして、その1個目も、はちゃめちゃなトリックによって除去される。
問題の12話。時間が半年だけ巻き戻り、乃々香さんが霧弥湖町に転居するシーンが繰り返される。1話から11話まで積み上げてきたお話がすべてなかったことになるという、たいへんな回だ。第1世界線と第2世界線の違いは以下。
第1世界線:
- 巨大な円盤がある。
- ノエルがいる。
- 霧弥湖町組のみなさん (柚季、こはる、湊汰) は乃々香のことを忘れてた。
- 乃々香は7年前のことを忘れていた。
第2世界線:
- 円盤は呼んだけど来なかった。
- ノエルはいない。
- 霧弥湖町組は乃々香のことを記憶していた。
- 霧弥湖町組は第1世界線の記憶がない。
- 乃々香と汐音は第1世界線の記憶がある。
- 乃々香は7年前の記憶が戻っている。(第1世界線の過程で思い出したので。)
天体のメソッドは、自分自身がフィクションであることに自覚的な作品である。第1世界線では、円盤やノエルといった異常な存在があり、それが原因の一端となって、さまざまな不和と和解があった。対照的に、第2世界線では、いかにもフィクションらしい劇的な存在が除去されている。乃々香が霧弥湖町組と再開するシーンは、特に劇的な出来事はなく、あっさりと終わっている。
第1世界線と第2世界線では、記憶の有無と、記憶があったりなかったりする期間 (7年前と半年前) が複雑に交代している。第1世界線において、乃々香が記憶を失っていた原因は、母との死別が辛かったためとされている。これは設定に無理があるようにも感じられるが、第1世界線は第2世界線から見れば半分フィクションのような位置づけなので、これはこれで良いのかも知れない。
乃々香の心が7年前に囚われている原因のうち、円盤は第2世界線では存在しないし、母の死は第7話で乗り越えたことになっている。残るのは、自分が引っ越すことを、友達たちに伝えられなかったことだ。
乃々香の心残りには2種類のバリエーションがある。第1種は、天文台で円盤を呼ぶ儀式をしたあと、汐音を呼び止めたけれども、引っ越すことを言い出せなかった場面。第2種は、天文台でノエルと遊んだあと、両親の乗る自動車に戻ったところで、そのまま天文台を離れることになった場面である。後者は前者の象徴みたいなもので、乃々香の7年前からの心残りが、ノエルの形を取っているように見える。
しかし、第2世界線では、乃々香が引っ越しを伝えられなかったことに対して、特に誰も気にしていない風である。冷静に考えてみれば、それはそうだろう。ともあれ、乃々香の後悔は宙に浮いてしまう。だから、第2世界線にはノエルがいないし、ノエルとの半年間の記憶をめぐって乃々香が空回りすることになる。
ここで、霧弥湖町組 (柚季、こはる、湊汰) と汐音は対応が別れることになる。前者は、その場では悲しかっただろうけど、転校していった友達のことをいつまでも悲しんだり恨んだりする理由がない。汐音と乃々香の関係はちょっと特殊で、汐音はものすごく悲しかったけど、乃々香と再び出会えたことで、過去の悲しみは吹き飛んだのだと思う。
13話の最後の場面で、奇跡を目の当たりにした乃々香たちは、表情が固まったまま動かない。中学生たちにとって、奇跡は無邪気に喜べるものではなく、おそるべき異常と判断して固まってしまう。
過去の一点に囚われた中学生はエモい。