Conversation

　熱は38度6分。咳込むと止まらない。頭痛もする。喉が痛い。鼻水が出る。風邪フルコースじゃないか。病気をしたら困るので、気を付けていたが、あれだ、昨日の出来事だ。電車で隣に座った女子高生がやたら咳き込んでいた。あまりにも酷そうなので周囲は引き気味だった。見かねて俺は鞄から、常備しているのど飴と、マスクを取り出した。そして横に指し出した。
　「え、もらっていいんです、がっ」
　言い終わらないうちに咳き込む彼女に、俺はのど飴とマスクを半ば強引に渡した。
　「ありがとうございますっ！」
　高速でお礼を言うと彼女は、のど飴の袋を開けて中身を口に放り込む。そしてマスクを付けた。なんとなく、周囲がちょっと安心したような気がした。俺も安心した。移されたくはない。
　しかし移ったようだ。ちょっと会話しただけなのに。
　咳き込んでいるとチャイムがなった。誰だ。見舞いに来てくれる人などいない。
　「はい？」
　「私、昨日助けていただいた女子高生……」
　え？
　「に化けていた鶴ですが恩返しにきました！」
　俺に幻覚症状きてる？

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