雨の日
サイネリアの青い花が咲いていた
それは職場の花壇。おおかた事務の方の趣味で植えたのだろう。
いつもなら、とてもそんなものに構う暇は無いが、今日に限って帰りのバスにはまだ時間がある。俺はそれを愛でることにした。
冬の雨はしとしとと冷たく、とても花弁に良いようには思えなかったが、花の方は案外平気な顔で、ぴし、ぴしと雨粒を弾いていた。
まるで雨はサイネリアの顔面をタコ殴りするかのように降るが、サイネリアは我関せずと気丈に振る舞う。なんだか、お正月にやるボクシングの試合みたいだ、と思う
そうするうち、俺は思い出した。高校の頃、俺よりふた回りくらい体格の良い同級生に、首根っこを掴まれ殴られた記憶。
理由など覚えていないが、確か俺の委員会の仕事の手際が悪いとか、そんな理由だった。
殴られた後は、まるでサイネリアがそこに咲いたような、見事な青タンになったっけ。
しかし俺は、とてもこの花のように平気な顔をしてはいなかっただろう。やめてくれ、早く終わってくれ、と
俺は花のおかげで清涼された気分を喪ってしまうと、代わりに冬の寒気に相応しい、後悔と恥ずかしさを手にバス停に向かった