このサイトで日々お伝えしているように、VR技術は今まさにめざましい進化を遂げようとしています。 テクノロジーの進歩を目の当たりにするのはワクワクするものですが、ここで一つ空想を巡らせて、フィクションの世界で描かれたVRを見直してみるのも面白いかも知れません。以前、VRが登場する映画を紹介しましたが、今度は連載の形で小説を紹介していきたいと思います。 関連記事:VRのこれからが見えてくるかもしれない、VRを描いた映画10選 2003年に早川書房が全国の書店で開催したブックフェア「仮想か?現実か? ありえないことなんてなにもない」では、フェアに合わせて小冊子が作成されました。その小冊子にはSF作家・神林長平の短いエッセイが掲載されており、その中で彼は、<新世紀を生きることになったわたしたちは、かつてないほどに、現実と仮想が入り乱れた世界に生きている。情報テクノロジーの進歩によって、否応なくそうした世界に生きているわけだ>と述べ、そのような時代に必要なのは<鍛え抜かれた想像力であろう>と語っています。 急速にVR技術が発達している今だからこそ、作家が想像力を尽くして書いたフィクションに触れてみる事にも意義があるのではないでしょうか。 そんな訳で、今回から始まる連載「フィクションの中のVR」では、これまでに発表されたVR関連の小説作品を振り返り、VRのこれからに想いを馳せてみたいと思います。 『フェッセンデンの宇宙』 まず第1回としてにご紹介するのは『フェッセンデンの宇宙』。この小説は『キャプテン・フューチャー』シリーズ等で知られるSF作家、エドモンド・ハミルトンによるもので、1937年にアメリカのSF雑誌に最初の版が発表されました。短編ですが、短いストーリーの中に科学への畏怖や人間の欲望などを簡潔に描き出しており、SF小説の古典的名作として知られています。この小説にVRは直接は登場しませんが、VRを考える上で重要な視点を1930年代の作品にして既に提示しています。 物語は主人公が友人の科学者フェッセンデンに招待され彼の研究室を訪れるところから始まります。その研究室には2つの円盤が上下に設置されており、円盤の間には不思議な真空の空間が存在していました。実はそれこそがフェッセンデンが創造した宇宙だったのです。