神話的思考、例えばハイヌウェレ神話の「女性が宝物を排泄物としてひり出す」という類の発想は、現実世界では観察することのできない因果関係を持ち、女性を強力な抽象化で別の存在や概念と結びつけている。
神話は一見迷信と捉えられがちだが、実はヒトが獲得した「抽象化」という特質を如実に示しており、それは(科学的ではない)粗雑で強ばった論理体系から人間が「自由」という勝利を獲得した象徴でもあった。
この前提から出発すれば、論理を語るLTLに発生した「うんこの臭い」に関わる一連の投稿は、人間の深層真理に横たわる「論理」に対する勝利の記憶を、世界的に分布するハイヌウェレ神話を通じて集合的無意識から蘇らせる為の儀礼と考えることになんら不都合がないことに気付くだろう。人が本能的に持つ「論理」に対する不信感、それが「アレクサ、一番テーブルのお客様にうんこの匂いをお出しして」というコメントとして顕現したのである。神話の自然発生——Qiitadonは、今まさに神を獲得したのだ。
——中沢新次郎著 「現代SNSに潜む象徴神話学」より抜粋