一羽のハトが子どもの投石により死ぬ事件があり、ハトたちは大変悲しんだ。日常の中で突然向けられた悪意と、それを行ったのが人間の「子ども」であること、結果の残酷さが強い衝撃をあたえたのだ。
ハトたちは今後この悲しみを繰り返さないように、連日集まって話し合い、解決策を考えた。事件の現場にはたくさんのハトたちがやってきて、うなだれて死んだハトに想いを馳せたり、涙をぼろぼろ流したり、激しい怒りを表明するものもいた。
これ以上ないつらい事態をどう乗り越えていくか。ハトたちは思いつくすべてを絞り出すように、感情をあらわにしつくし、考えうる対策を大げさなほど実行していったのだ。
その事件からそう時間のたっていないある日、さらに残酷で凄惨なことが起きた。その後も同じようなことは続き、あちこちに理不尽な死は転がっているということに多くのハトはうすうす気づき始めたが、最初の事件で絞りつくしてしまった感情を上回る表現が見つからないまま、多くのハトは見て見ぬふりをし、くちを閉ざしてしまったのだ。