寒く厳しかった冬が終わる。日に日に暖かくなり、町に次々花が咲き始めた。
「今日は沈丁花も咲いていた。梅はもう終わってしまいそうだな。黄色い綿のような花もたくさん咲いていた。あれは何て名前だろうな!」花好きの友鳩が、興奮した様子で私の隣の枝にやってきた。「いい香りだった、お前も今のうちに嗅いでおいた方がいいぞ」友の鼻の上には花粉が少しついている。頭を花に近づけすぎたんだろう。
「これから暖かくなれば、いろんな花が次々咲くだろう。楽しみだ。桜、蓮華、蒲公英、繁縷、茉莉花、梔子……でも私は桜まで生きていられるだろうか? 何度花の季節を過ごしても、いつも次の花が見られるのか不安で仕方ない。なあ、私は強く強く祈るんだ。私の命があるうちに、もう一度見たい花々を、一気に咲かせてくれないか……と」
私たちの祈りはちっぽけなもんなんだな。友鳩はその後、桜も見ずに逝ってしまった。あんなに強い願いだったのにそれも叶わないんじゃ、もう何も願う気がしなくなる。青い空を見上げると、鼻腔を蕩かすような梔子の香りがした。
2020/02/23