枇杷の実が色づいてきた。ハトはあれには近づかないことにしている。
初めて枇杷の実を見た時は驚いた。こないだ見た時にはあんなものはなかったはずなのに、びっしりと山吹色の実がついているのだ。食べ物だろうか? すこしかじってみよう。くちばしで産毛の生えたやわらかい皮をつつくと、優しい香りがして、舌には甘い果実の汁が伝わってきた。
ちょっとだけその汁を楽しんだけれど、すぐにその場から飛んで逃げた。あれはいけない! あんなにいいものだとは思わなかった。あれほどのものは、きっと「宝」だろう。傷をつけてしまった。盗まれたと誰かが騒いで、追ってこないだろうか。その夜はいつ「命で罪を償え」と言われるか恐ろしくて、夢にまで見た。夜の暗闇に月のようなあやしい山吹色の玉が浮かび、あの香りを漂わせて、甘い雨が降るのだ……
それから毎年この季節に枇杷を見かけるが、私は枝にとまったことすらないから、潔白だ。ハト胸を張れる。
夢に見ることはある。私だけの枇杷の木を手に入れる夢だ……