それから二人で歌舞伎町そばのとんかつ茶漬けの店へ行った。透明なエレベーターのあるビルだった。エレベーターに乗り込む時、私が「少し怖い」というと彼は「これ見て」といってポケットからポイフルを取り出した。今度は、袋に包まれていない生ポイフルだった。「これの方が怖くない?」彼はそう言ってまた生ポイフルをポケットにしまった。私は彼の目を見るのが怖くなった。どこか見透かされているような、心の裏側に回り込まれたような、そんな気がしたからだ。いつもそうだ。人付き合いが苦手で、昔から人と合うことを避けてきた。それでも、一人が心地良いと自分に言い聞かせてきた。輪に入れず傷つくのを恐れてきた。それでも、今私の目の前にいる彼が、私を傷つけるなんて1ミリだって信じられなかった。エレベーターが5階につくき扉が開いた。「もっと上に行きたい」頭で考えるよりもずっと早く言葉が口をついて出た。本心だった。彼は生ポイフルをくちゃくちゃ食べていた。
終わり