「ようやく、車の音が聞こえる。それまでの一時間半、暗がりのなか、玄関わきの電話の横の窮屈な椅子に座って待っていた。 腰を上げたのはたった一度、三十分ほどしてキッチンヘメイドの様子を見にいったときだけだ。メイドは同じ場所にいて変わりない。 薄暗がりのなかに目だけがほの白く見える。あたりに鼻につんとくる妙な臭いがして、猫でもいるのかと思う。だが、この家に猫などいないことは知っている。それで、メイドが失禁したのだと気がつく。一瞬、嫌悪をおぼえるが、しかしすぐにちょっぴり罪悪感にとらわれる。」#IanBanks 『共鳴』